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暮らしに役立つおばあちゃんの知恵袋

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川崎1612番地1

著名人が語るおばあちゃんの知恵袋

ペマ・ギャルポさん 

・桐蔭横浜大学・大学院教授、チベット文化研究会名誉所長

『爺やが「生きるための知恵」を教えてくれた』


5、6歳の時には爺やと毎日晩酌

 中国の侵攻で故郷チベットからインドに亡命。1965年に来日してから40年。今は政治学の大学・大学院の教授、そしてテレビ、雑誌において国際コメンテータとして活躍されているペマ・ギャルポ先生に、チベットにおけるおばあちゃんの知恵、健康法や生き方におけるチベットと日本との違いなどについて伺った。

ペマ先生:「私が生まれた時に血のつながりのある父の母、母の母はすでに他界されていましたので、私と寝起きを共にして指導してくれたのは、爺やでした。
 爺やは大変酒が好きで、私も5、6歳の時に酒を飲むようになり、毎日2人で晩酌をするようになりました。やがて故郷を離れてインドに行ってからも、私はこっそり隠れて飲んでとうとう急性アルコール中毒になってしまいます。三日間くらい頭はぐるぐる回るし、痛いし、大変な目に遭いました。そして回復したと思ったら、母から大変なお叱りを受けました。

 この時、爺やが私に教えたのは、『酒を水にかわす』ということでした。いわば、酒を飲んでも飲まれるなということでしょう」

  それは酒に対する考え方が「子供は飲んではいけない」という日本とは違うんですか。

ペマ先生: 「日本でも酒は『百薬の長』と言われますが、同じことを爺やは私に言いました。
 昔から酒は飲むだけではなく、例えば、消毒とか、様々な用途に使われてきました。だから、子供の時から酒との接し方を教えることが大事だったのではないかと思います。また、『自分の限界を知る』ということでもあったのでしょう。これが1つ目の爺やの教えでした。

  そして、『早寝早起き』をとにかく実行することでした。
 夜まで遊んで帰ってくると、『カラスでも夕方になれば家に帰るではないか』と言って、叱られました。そして、『早く寝て、早く起きると人生には得がある』とよく言っていました。
 今から考えれば、極めて健康的な生活だったと思いますね。子供でも朝6時には起こされます。そしてお経をあげることから1日が始まるのです。
 夜になると、爺やが近所の子供たちも呼んで物語や神話を聞かせてくれました。  その話の最中、『ああ、かわいそうに』とか、『それからどうなったの』というような子供たちのあいづちがなくなると、途中で話をやめてしまうんですね」

 それは子供たちがきちんと聞いているかどうかをみているわけですね。寝てしまう子もいますから。

ペマ先生: 「そうそう。子供たちに順番にしゃべらせたりもしました。
 爺やが話してくれる物語や神話には最後に必ず道徳的な教訓があるんです。
 そして自分が大人になった時、自分の経験や教訓を入れながらまた子供たちに語り継いでいくんです。
 今にして思えば、爺やの話を聞いて自分が学び、それを人に伝えること。そして、人の話をきちんと聞くことを子供のときから自然と教わってきたような感じがします。これが2つ目の教えです 」

 生きるためだけの知恵だけではなくて、心の健康、心の健全な育成への願いが込められているようにも感じますね。

ペマ先生: 「また、今では遊び道具は買ってきますが、爺やは遊び道具を自分で作ることを教えてくれました。
 また、動物を捕まえる狩りを教えてくれました。
 罠を仕掛けて動物や鳥を捕まえる。どんな罠を仕掛けたらいいのか、どこに仕掛けるのかなど。そして捕まえたら可哀想だから放してやる。
 こうした狩りの仕方をいざという時のために教えてくれました。

 また、薬草をとるのに一緒に出かけました。爺やはチベット医学の知識がありましたので、これが毒で、これが薬になるといったことを教えてくれました。
 動物の糞の中にも薬になるものがあります。そういう見分け方を教えてくれました。
 さらに動物の糞を見て、肉食動物のものか、草食動物のものかとか、どの動物の糞であるかという見分け方も教わりました。例えば、鹿にも何種類かの種があって、それぞれの違いであるとか。その動物の健康状態までもわかるようになりました。これが3つ目の教えです。
 
 子供にとっては遊びに捉えられることが、実は実益を兼ねた知恵、そして自分が自立していく上で役に立つ知恵を爺やが教えてくれましたね 」

 これこそが「生きた知恵」というべきものですね。

ペマ先生: 「また、私は7歳か8歳の時に、父母に代わって裁判をしたことがあります。小さかった頃のチベットは中世の封建体制が残っていました。当時のチベットでは裁判所がなく、殿様が裁判を行っていたからです。
 本来なれば父母が行うべきことだったのですが、中国に行っていたために、わずか7歳か8歳の私がやることになりました。長老たちがいて双方の言い分を聞くのですが、2日間くらいのやり取りを子供であってもじっと我慢して座って聞いていないといけない。
 しかし子供だからじっとしていられなくなると、爺やがつねるわけです。
 その代わり、じっと我慢して座っていると、『よく我慢できました』と言って、褒めてご褒美をくれました。
 その2日間が終わって調停に入るんですが、最後に私は『それはその通り』ということを言えばいいんです 」

 そのように長老たちが結論を積み上げていくわけですね。

ペマ先生: 「『その通り』と私がいうことで、全てが決着する。
 今から振り返って考えますと、全てが教育であり、知恵であったと思いますね。
 1人1人の人間は社会の一員としてそれぞれに社会の中での役割があり、その役割は全員が同じではなく、個々によって違う役割を持たされているということです。
 その役割をこなすための教育を爺やは私が小さい時からしてくれたのだと思います。」

 話を伺って、日本の家庭とのギャップを感じますし、日本でそこまで子供を躾けたり、教育している家庭はないのではないかと思いますね。

ペマ先生: 「子供の教育でいえば、核家族化したことで伝統が継承できなくなったと思いますね。各民族には民族の文化、各地域には地域の文化、各家族にも家族の文化があります。それを継承することは人間社会の中では大事なことだと思います。
 家庭にはその家庭の『味噌汁』の味があるわけですから」

 そういう家庭の味というか、知恵というものが、経済が豊かになり、核家族化が進んだことでなくなってきたのかと思うと残念ですね。

ペマ先生: 「食事を作るのを手伝う子供もいない。母親も作るよりはコンビニで買ってくるようになってしまっています」

 コンビニで買えば一見便利でいいように思われますが、大事なものを無くしていっている。

ペマ先生: 「私は『日本は大家族を取り戻さないと人間らしさを失ってしまう』と考えています。
 教育とは、真似することから始まるのですから」

見直され始めたチベット医学、インド医学のアーユルヴェーダ

 チベット、インドでの伝統的な健康法について教えてください。

ペマ先生: 「いま世界的にチベット医学、そしてインド医学のアーユルヴェーダが評価されてきています。
 米国では第三医療として漢方薬、チベット医学、アーユルヴェーダが認められ、保険が使えるようになってきています。
 米国で認められれば、日本には今後必ず入ってくると思います。チベット医学が見直されるのは時間の問題だと思います。

 中国は侵攻後、あらゆるチベットのものを破壊しましたが、チベット医学だけは残しました 」

 それはなぜですか

ペマ先生:「それはチベット医学が極めて効果的であるということと、副作用がないという点からです。
 チベット医学の場合、『病は気から』という考え方ですから、医者が話を聞いてくれて、いろいろと助言をくれます。それで食事治療法を教えてくれて、それでもダメだったら、薬をくれる。
 薬を飲んでダメだったら、最後に切開するとか、お灸をするという方法なんです」


 ペマ・ギャルポ
(桐蔭横浜大学・大学院教授
チベット文化研究会名誉所長)

 1953年チベット生まれ。59年、インドに亡命、難民キャンプで少年期を過ごし、65年来日。亜細亜大学卒業後、73年にはチベット文化研究会を設立する。80年から90年まで、ダライ・ラマ法王アジア・太平洋地区担当初代代表に就任する。96年、岐阜女子大学教授、2004年3月、岐阜女子大の名誉教授。そして現在、チベット文化研究会名誉所長、桐蔭横浜大学・大学院教授である。最近の主な著書には、「ダライ・ラマ法王の実践幸福論」(原案/ダライ・ラマ14世、訳/ペマ・ギャルポ)、「新国際政治学講座 お蔭様イズムの世界」、「世界同時大恐慌」(著/ラビ・バトラ、監訳/ペマ・ギャルポ・藤原直哉)がある
 「三分診療」と批判される日本の医療と比べると、全く違いますね。

ペマ先生:「チベット医学のよさはどこにあるかというと、チベットの薬は殆どが自然の薬草から作っている薬で副作用が少ないということです。また、薬の処方にしても、患者さん1人1人の症状をみて、処方箋を書きますから、午前中の薬と午後の薬が違うのです。
 仕事をしていると、午前中はまだ元気ですが、午後には疲れてきます。こうした身体の状態に合わせて薬の処方をかえてくれるのです 」

 日本の病院では、朝昼晩と同じ薬を同じ分量飲みますが、これがチベット医学とインド・アーユルヴェーダの特徴だということですね。
 最後にペマ先生ご自身の健康法はなんですか。


ペマ先生: 「前向きに生きることだけです。  悲しいときは泣く、うれしいときは笑う、怒ったときには大声を出す。これが私の健康法です」

 心に逆らわず、ストレスをためないこと。まさに「病は気から」だということですね。

  (第9回 ペマ・ギャルポさん インタビュー 終わり)