”ドキドキ”が心のくもりを取り除く研磨剤になるんです
■私、とっても“もったいながり”なんです 晩秋の日比谷公園近くのホテルのロビーに現れた庄野さんは、シャキッと背すじを延ばしてテンポ良くさっとうと歩く姿は、テレビで観たままの実に美しい方だった。 庄野真代さんはご存知の通り歌手として数々のヒット曲を世に出し、NHKの紅白歌合戦にも『飛んでイスタンブール』で出場してその名を知らない人はいないくらい幅広い層のファンを持つトップミュージシャンである。
自分の身体との対話はよくしますよ。必ず一日、一回は汗をかくように心がけています。特別に何かをするというよりも、普段の生活の中で出来る“ながら運動”が好きですね。例えば洗濯物を干すときも全身を使って干したり、テレビを観ながらも軽く身体を動かしたり。私、とっても “もったいながり”で、いつも一石二鳥か“三鳥“にならないかと考えてしまうんです。朝起きてパソコンを起動している少しの間でも何か他の事をしたり、少しも無駄にしたくないんです。すごく貧乏性なんですよ。と庄野さんは笑う。 また「理由がないと休めない、リラックスべた、休みべた」と、ご自分のことを言う庄野さんはお仕事で忙しいなか、つい最近まで大学に通っていた。海外留学の経験や大学院も出ている才女である。昼は勉強、夜は仕事と毎日やることが多くあって睡眠は1日5、6時間、夜明けと共に寝る日も多いという。「布団に入っても楽しいことが浮かんできて、寝てる場合じゃないと起き出したりします」と、とくにかく毎日が充実しているようだ。 ■音楽には“間違い“や“正解”はなくて、自分の心にあるものを自分なりに表していくもの
こんなに積極的に動き回り“健康そのもの”という感じの庄野さんだが、実は子供の頃は体が弱くて入退院を繰り返したという。 今まで15回くらいは入院しました。小さい頃は病弱で運動もあまり出来なくて、一人で本を読んでいることが多かったんですよ。 その後、アマチュア時代は“オーディション荒らし”といわれるくらいの実力派として名を上げ、プロの道へと進んでいった。 小さい頃は病気がちだったからこそ、今の自分の身体の状態にはとくに気を配り、そして健康であることに感謝しているという。それがいつまでも変わらず若々しい庄野さんの秘密なのだと実感した。 ■あの世界一周旅行で、自分も地球のメンバーの一人なのだと感じることができました
1980年に旅行したのは30カ国、130都市以上。最初は思いつきで気楽に、いろいろな人や文化、自然を見てみようというくらいの、とくに目的もない世界旅行の予定だった。ところが最初に訪れた国、タイで気持ちの大きな変化があったという。 バンコクの食堂で、タクシーの運転手をしながら英語の勉強をしているという人に「タイで獲れたエビは全部、日本に輸出される。エビを養殖するために美しい島の周りに生えているマングローブを切り開き、自然が失われ、漁師も農家の人も仕事が無くなっていく。これをどう思いますか?」と意見を求められたが、何も答えられなかったんです。そんな自分に、そして日本の外で起こっている現実を何も知らなかったということがショックでした。
■”ドキドキ”が心のくもりを取り除く研磨剤になるんです 世界を旅していろんな人と接し、いろんな文化を見てきた者の使命として“伝えなきゃいけない”とずっと考えていました。そして、私は音楽をやっているのだから音楽を通してそれをカタチにしていこうと思ったのが、NPO法人「国境なき楽団」設立のきっかけです。 一人では声が小さくて届く範囲も狭いけれど、同じように何かをしたいと思っている人が一緒になって声を出したらもっと遠くまで届くようになるんです。 「国境なき楽団」の活動としては、使わなくなって家で眠っている楽器を海外の施設に送ったり、実際に持って行ったり、最近ではマレーシアの子供たちに会ってきました。またクアラルンプールでは地元のバンドとセッションして交友を深めてきました。コトバはなかなか通じないけど、音楽だと心のコミュニケーションができて本当に楽しいんです。 「国境なき楽団」のボランティア活動はとてもたいへんそうですね、という問いに庄野さんは首をふる。 ボランティアというと髪を振り乱して一生懸命やって辛いというイメージがあるけれども、そうではなくて自分たちがやれることを楽しんでやっています。自分たちが楽しむことが大切なんです。 何かやりたいと思ったら、もう一度周りを見直してみて下さい。 チャンスやきっかけは、実は身近にいっぱいあるんです。心を澄ませ、耳を澄ませてみると見えてくるもの、聞こえてくるものがあるんです。 とキラキラとした笑顔で語っていただいた庄野さんは、来年以降にはトルコにも活動の幅を広げるという。あの名曲「飛んでイスタンブール」が本場のトルコで流れる日も近いようだ。これからの更なるご活躍に期待しつつインタビューを終わらせていただきます。 (第17回 庄野真代さん インタビュー 終わり) |